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機械式時計

自然の力を利用した日時計、水時計、燃焼時計、砂時計とは違い、機械の仕組みを使って時を計るのが「機械式時計」です。自然からの制約を受けない機械式時計は、長年に渡り仕組みや部品等の創意工夫により、精度、大きさ、携帯性が大きく向上しました。

1. 最初の機械式時計

初期機械式時計(セイコーミュージアムで展示)
初期機械式時計
(セイコーミュージアムで展示)

世界で最初の機械式時計は、北イタリアから南ドイツに至る地域で、1270年から1300年ころにかけて作られたといわれています。

現在のような文字板と針はなく、鐘を鳴らして時を知らせていました。
2つの錘が落ちていく力を使い、一つで時計を動かし、もう一つで鐘を鳴らします。

時間の調整は冠型脱進機で行いました。時計の上部で棒てんぷが水平の往復運動をし、錘が一気に落下することを防ぐと同時に歯車の回転を一定速度に制御します。
棒てんぷの両端に下げられた錘の重さと位置を変えることで、往復にかかる時間を調整します。冠型脱進機の発明時期と発明者は分かっていません。

精度はかなり低く、一日に30分から1時間程度の誤差がありました。
14世紀には文字板のついた塔時計が市役所や聖堂に設置されるようになりました。

2. 精度の向上

棒てんぷと冠型脱進機
棒てんぷと冠型脱進機

当初の機械式時計の精度が低かった原因の一つは、棒てんぷにありました。水平方向の往復運動には等時性がなかったからです。
これを大きく改善したのが振り子時計です。1656年、オランダのクリスチャン・ホイヘンスは、ガリレオが発見した「振り子の等時性」を時計に利用して振り子時計を発明しました。精度はそれまでの十倍以上の、一日数分程度に向上しました。

アンクル脱進機
アンクル脱進機

低精度のもう一つの原因は、冠型脱進機でした。振幅が大きく、摩耗も激しいこの仕組みは、古くなると更に精度が落ちました。1675年ころ登場したアンクル脱進機は冠型の二つの弱点を大きく改善するものでした。
1755年ころにイギリスのトーマス・マッジが発明したレバー脱進機は、精度向上を更に進めました。サイズが小さくできることもあり、現在ほとんどの機械式腕時計にこの方式の一種であるクラブツース脱進機が使われています。

3. 小型化と携帯性の向上

初期の懐中時計

最初の機械式時計は、動力源として錘を使っていたため、錘が落ちていくための高さが必要でした。
この錘の代わりにぜんまいを動力とすることで、大幅な小型化が可能になりました。ぜんまいがいつ発明されたかは諸説ありますが、15世紀後半にはぜんまいを動力とする時計の存在が確認されています。ぜんまいは、その後、持ち運びができる時計への道を拓く役割を果たしました。

てんぷぜんまい

小型化と携帯性向上のもう一つのカギが、てんぷぜんまいでした。時計の精度は振り子のおかげで飛躍的に向上しましたが、振り子があるために持ち運びができませんでした。揺れると振り子が止まってしまうからです。また、振り子はある程度以上のスペースを必要としました。
らせん状のぜんまいは、振り子と同様に等時往復運動をします。振動しても止まることがありませんし、小さなスペースに組み込むことができます。1675年ころ、てんぷぜんまいを使った時計を発明したのもホイヘンスでした。

このように機械式時計は、高い建物ほどの大きさで一日一時間程度の誤差のある塔時計から、誤差が数分程度の懐中時計にまで精度・サイズ・携帯性の面で大きく進化しました。
それ以外の面でも、腕に着けているだけで自動的にぜんまいが巻き上がる自動巻き機構、水中でも使える防水機構、機械を保護する耐衝撃機構などの発明が次々となされ、利便性を高めました。一年中、均等に時間を刻む機械式時計の登場は、それまでの不定時法から現在の定時法へと時刻制度の変革をもたらしました。
また、時刻の大切さを認識する機会をもたらし、初期の資本主義の誕生のきっかけとなりました。