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セイコーのモノづくりを支える“現代の名工”たち

セイコーは数々の時代を画する製品を世に送り出してきましたので、「技術開発型」の会社とみられがちですが、創業以来、高品質で精巧な「モノづくり」を基本方針としてきた会社でもあります。
いくらいい発想・アイディアがあったとしても、それを“かたち”にする人たちがいなければ、お客様のもとに製品をお届けすることはできません。
セイコーは“モノづくり”は“人づくり”と考え、優秀な技術・技能者の育成に力を注いできました。その中核を担った人たちが“現代の名工”たちです。
当然のことながら、ここで取り上げる“現代の名工”たちは、多くの技術・技能者たちを代表していることは申すまでもありません。

現代の名工

1.国内海外の精度コンクールへの挑戦

セイコーは内外の精度コンクールに積極的に挑戦し、技術・技能を磨き、人材を育ててきました。 国内では1948年から「国産時計品質比較審査(時計コンクール)」に挑戦し、1956年、初の自社設計機種である「マーベル」の開発以降、コンクールのトップ・上位を独占し続け、その技術・技能は1960年発売のグランドセイコー誕生へとつながっていきます。
そして、1963年、世界最高峰の精度コンクールであるスイス天文台クロノメーター・コンクール に挑戦します。
参加当初は苦戦するも、1967年には上位入賞を果たし、1968年には世界最高記録を樹立しました。
(1967年までニューシャテル天文台、1968年はジュネーブ天文台に参加 検査規格は同一)

スイス天文台クロノメーター・コンクール

1968ジュネーブ天文台コンクール世界新記録樹立ムーブメント(1968年)

成績表

1968年ジュネーブ天文台成績表 中山きよ子氏

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精度の作り込みは、調整者の力量・技量が大きく左右しますので、ジュネーブ天文台コンクールでは成績表に調整者の名前が刻まれます。

中山きよ子氏について

1971年(昭和46)、女性初の「現代の名工」として、表彰された。労働大臣より「優秀技能章」の楯と表彰状が贈られた。
1943年(昭和18年)大和工業 (現セイコーエプソン(株))に入社、婦人用5型からグランドセイコーVFAにいたるまで各種機械腕時計の組立・調整を担当した。当時、女性としては数少ない一級時計修理技能士の資格を有し、時計コンクールにおいて、重要な役割である精度の調整を行う「調整者」として国内外で優秀な成績をおさめた。特に1968年(昭和43年)のスイスのジュネーブ天文台国際クロノメータ・コンクールでは 諏訪精工舎より小池健一氏(1987年度現代の名工)、稲垣篤一氏(1973年度現代の名工)と共に参加、コンクール170年の歴史の中で女性として初めての出品者であり、調整者賞を受賞した。
長い年月、ひとつのことに取り組んできた忍耐と努力により身につけた高い技術・技能はセイコーの無限の精度への挑戦の礎となってきた。自身の経験に依存することなく、常に(受賞後も)新しい理論・技術に取り組む姿勢は、セイコーのウオッチの歴史を物語たるものである。

参考文献
  • 社内報 諏訪せいこう
  • SEIKO BOOK 徳間書店

スイス天文台クロノメーター・コンクールでの好成績は、スイスに追いつき、追い越したことを意味し、大きな自信になるとともに、コンクール挑戦で培われた技術技能は以降の「モノづくり」(量産)に大きく役立ちました。

2.高精度・高品質腕時計の量産化

コンクールで培われた高精度技術・技能を多くの人々に届けるためには、時計部品の精密な製造・加工技術の向上と量産化技術・生産装置の開発は欠かせません。
機械式時計の高精密な部品製造・量産化を支えた“現代の名工”たちを紹介します。

3.東京オリンピックとクオーツ革命・多角化

セイコーは1964年の東京オリンピックで公式計時を担当し、クオーツ技術をはじめとする最先端技術を搭載した計時機器の開発により、オリンピックで初めて「計時クレームゼロ」という記録を打ち立てるなど、公式計時の世界に大きな革命を起こしました。 そして、セイコーブランドが広く世界に認知され、“先進・高品質”のイメージが定着しました。
また、東京オリンピックは公式計時を担当した各社に新しい事業をもたらし、成長の大きな原動力になりました。

水晶振動子事業

公式計時に使用された“クリスタルクロノメーター (小型水晶時計)”の開発は、世界初の水晶腕時計(セイコーアストロン)の商品化(1969年)につながりました。
現在では全腕時計の98%が水晶方式で、その全てにセイコーの固有技術(音叉型水晶振動子・分散型ステップモーター )が搭載されています。
特に、自社開発した音叉型水晶振動子は小型で耐衝撃性に優れ、腕時計のクオーツ革命を決定付ける中核技術となり、現在では腕時計だけではなく、多くの電子機器に搭載されています。
水晶振動子の量産化技術の開発に取り組んだ“現代の名工“を紹介します。

クオーツアストロンの世界標準技術

音叉型水晶振動子

  • 棒状から音叉型にすることで「小型化」と「耐衝撃性」「安定した振動」が可能となる
  • 音叉型の複雑な加工はフォトリソグラフィ製法の発明で克服
  • サーモバリコンの開発で温度特性改善

オープン型ステップモーター

  • ローター、コイルの分散配置によりモーターの小型化を実現
  • 1ステップ/1秒の運針方式の開発で小型化と省電力化を実現

プリンター事業

特に、計測タイムを即時に印刷する“プリンティングタイマー”の開発は、計時システムに大きな影響を与えた革新的な計時機器でした。
一方、プリンティングタイマーの開発はのちのプリンター事業の創出に結びつきました。

プラスチックレンズ(光学)事業

クオーツ腕時計に使用されているエンジニアリング(強化)プラスチック部品の内作化に取り組みました。
その精密な成型技術をベースに日本で初めて「プラスチックレンズ」の開発製造に成功しました。
以降、国産初世界初のレンズを開発し、メガネレンズのプラスチック化を大きく牽引してきました。 その製造を支えた“現代の名工”を紹介します。

4.腕時計の高級化への取り組み

1980年代中盤、スイス時計産業は装飾性に優れたデザインと職人の手造りによるステータス性・希少価値と機械式時計ならではの長い歴史と伝統を全面に押し出したモノづくりと宣伝広告により、新しい「高級時計」市場を掘り起こしました。
セイコーは1988年、15年振りにグランドセイコーを復活させ、スイスとは一線を画した最新の技術と伝統的な技能をベースにクレドールを含め本格的に腕時計の高級化に取り組みました。
“最高峰クオーツ・高精度ハイビートメカ・第三の駆動方式スプリングドライブ”の高級ムーブメントの開発、そして匠の技術に磨きをかけ、加工・仕上げの美しさ・高質化に取り組み、一大ブランドに育ってきています。
そのモノづくりを支えたのが「現代の名工」たちです。
また、業界で初めてのグランドセイコーのデザイナーが「現代の名工」として認定されました。

「現代の名工」たちは、培った技術・技能を後世に継承していくため、後進の指導・育成にも積極的に取り組んでいます。

現代の名工 26名

会社名: SE:セイコーエプソン(株) SII:セイコーインスツル(株) SSC:セイコーサービスセンター(株)
参考資料: セイコーグループ社内報、プレスリリース、 SEIKOBOOK(徳間書店)

会社名 氏名 入社 現代の名工受賞年度 備考
SE 中山 きよ子 1943 1971 女性としては数少ない一級時計修理士の資格を持ち、婦人用からグランドセイコーVFAまで機械時計の組立・調整。1968年ジュネーブ天文台コンクールで史上初の女性として調整者賞を受賞。
SE 稲垣 篤一 1953 1973 1967年 ニューシャテル天文台コンクール参加。 1968年ジュネーブ天文台コンクールで 調整の時計が機械時計の調整者のシリーズの最高記録を樹立、腕クロノメータ部門で機械時計、調整者シリーズ賞9個の内 5個受賞。
世界最高記録 ジュネーブ天文台 58.19 ニューシャテル天文台換算参考値 1.33
SII 野村 壮八朗 - 1974 1965年 ニューシャテル天文台コンクールで日本人として初の調整者賞を受賞。時計理論と調整技能の合体による成果に対するもので大きな意義となった。
SE 小池 健一 1955 1987 1968年 スイスジュネーブ天文台コンクールで 腕クロノメータ部門で機械時計、調整者シリーズ賞9個の内 3個受賞。技能五輪の指導。機械時計の高精度化、水晶時計の小型化、薄型化に寄与。
SE 田中 功 - 1984 技能検定 機械技能士 仕上げ技能士一級を有し、後輩の育成にも優れた能力を発揮。
SE 鎌野 幸雄 1947 1988 機械器具組立・機械仕上げの分野で培われた技術で、時計製造専用機の組立調整に関わる。誰でも操作できる機械を目指し、名人のカン・コツを数値化・標準化した。
SE 細谷 千治 1955 1991 ウオッチをはじめ、情報機器・光学の自動生産ラインの開発に成功。震動により部品を揃える「部品供給装置の考案」で特許を取得するなど 卓越した力を発揮。 (大河内記念生産特別賞受賞)
SE(トヨコム) 原 光男 1971 2006 クオーツウオッチの基幹部品である水晶振動子の生産装置の製造に携わり、生産増加のなか、様々な装置を考案、加工・組立の生産性向上に貢献、近年では調整・改良によって、大幅な省電力化を実現。
SE(トヨコム) 櫻井 賢治 1981 2010 生産装置の自動化・効率化・省エネルギー化に長年従事、設計からソフトまでメカトロニクス調整を行える熟練多能工。水晶振動子生産装置は独自の技術・機構により、製品コスト大幅削減・新製品の量産化に貢献。卓越したノウハウの継承にも積極的に取り組み、多くの技能者を輩出。
SE(アトミックス) 柴田 浩一 2000 2010 人工水晶育成炉の内部圧力保持に必要なシール面の精密仕上げに永年精励し、装置の長寿化・修正作業の効率化を実現。県内の工業高校での講義・実演指導も行い後身技能者の育成にも貢献。
SE 酒井 貞明 1970 2007 ウオッチ・プリンタ・光学・水晶等製造装置開発に携わり、近年は10,000分の1ミリメートルの精度を必要とする装置の開発製造を中心になって推進。「インクジェット方式による電子デバイス生産技術の開発」で「2005年第1回ものづくり日本大賞優秀賞」を受賞
SE 飯森 尚 - 2008 長年、金型業務に携わり、プレス・プラスチック金型の仕上げ・組立調整の技能に優れ、高精度プラスチック金属製造技能において高い評価を得る。プリンター筐体の非塗装化を実現
SE 兼田 精 1957 2001 治工具の加工組立に携わり、その後ウオッチ・コンタクトレンズ・プリンタの生産ライン・供給システムを担当。 「コンタクトレンズ自動生産ラインの開発と実用化」で1990年大河内記念生産賞受賞。
SE 北澤 猛 1960 2005 ウオッチやプリンタ関係の合理化機械を構成する精密部品・精密治具の加工技術、プラスチック射出成形・プレスの金型製作に携わり、現在のウオッチ・プリンタ関係の合理化ライン、「コンタクトレンズ自動生産ライン」の開発に貢献。
SE 家塚 恒夫 1965 1998 メガネレンズ・コンタクトレンズ・液晶パネル等製作機械の精度測定・分析で精密機器の開発実用化に尽力。コンタクトレンズ・メガネレンズの生産ラインでは困難な精度測定方法を考案、量産化に貢献。
SII 櫻田 守 1965 *1999 機械式腕時計の組立製造に携わり、その技法を確立するとともに後進への指導育成に多大な業績を残した。厚さ1.98mmの極薄ムーブメントを手作業で100分の1ミリ単位で部品補正を行いつつ精度を確保して組み立てる技能を有する。
SII 照井 清 1970 2002 腕時計の外装(ケース・文字板等)加工に従事し、数多くの考案、改善を重ねてきた。1995年より、機械式腕時計の彫金を手掛け、国産腕時計の工芸品としての価値の向上、機械式腕時計の復権に貢献。
SE 塩原 研治 1976 2003 技能五輪で全国大会及び国際大会で金メダルを獲得。その後も多くに新製品の立ち上げに携わり、長野県の時計技能検定委員を務めるなど技術者の指導・育成に積極的に取り組む。 (スプリングドライブ 複雑時計 ソヌリ)
SE 竹岡 一男 - 2006 1977年「オランダ技能五輪世界大会時計修理職種」で日本人初の優勝の功績。優れた技術・技能でウオッチ事業の発展の一翼を担う一方、後進の育成に 力を注いだ。長野県で「信州匠の時計修理士」立ち上げの中心となり、時計業界の発展に貢献。
SE 中澤 義房 - 2008 高級時計組立の分野で品質追求・組立技術確立・後進の育成に寄与。1981年技能五輪国際大会(修理時計部門)で世界一位。クオーツ時計世界最薄ムーブメントの専任組立者であり、超複雑時計「クレドール スプリングドライブ ソヌリ」の組立調整者。
SII 観音堂 和司 1971 2009 クレドールやグランドセイコーなどの高級機械式時計やクロノグラフ機能を搭載した時計の組立調整で高い技能を発揮。国家検定制度の「時計修理技能検定」の検定委員や社内指導などで機械式腕時計の組立・調整技能の普及と伝承に尽力。
SE 中田 克美 1982 2010 高級時計組立の分野で品質追求・組立技術確立・後進の育成に寄与。1984年技能五輪全国大会(修理時計部門)全国一位。スプリングドライブ高級複雑時計などの専任組立者であり、工芸的な部品仕上げは国内外で極めて高い評価を得る。
SSC 笹川 修 1994 2013 アンティークから最新の複雑腕時計の高度な修理・組立調整技術を有し、時計技能全国大会で優勝するなど、時計修理の第一人者。幅広く時計業界の発展と後進技能者に育成・指導に貢献。
SE 小松 郁清 1982 2014 時計技能者の指導・育成に指導者として実績を残すと共に技能検定委員他多くの競技委員を務め、時計産業の発展、及び業界の技能向上に多大な貢献。国内外で高級品組立実演を行い、微細なメカニズム、高級仕上げ外観、超難度な組立技能を多くの人に伝え日本の時計ブランドイメージ向上と売上拡大に繋げた。
SII 小杉 修弘 1993 2014 40年間 ウオッチのデザイン開発に携わり、近年は主にグランドセイコーメカニカルモデルデザインを手掛けている。ステンレス・貴金属の輝きや反射、腕に装着した際のフォルム等を極限まで追求し、ケース・バンドのデザインに日本独自の機能美を確立。プロダクトデザイナーとして初の「現代の名工」の受賞。
SII 平賀 聡 1989 2015 機械式時計の組立に携わり、1995年最年少記録の25歳で時計技能競技大会で優勝。近年は主にグランドセイコー(メカニカルハイビート36000GMTなど)を担当、新製品の開発段階から参画しており、市場では高い評価を得る。