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時間とは何か 第二話

「時間」という言葉は、一般的には、「時の流れのある一瞬の時刻」、あるいは、「ある時刻とある時刻の間の長さ」の意味で使われています。
ただし、「時間とは何か」といざ問われると、このテーマには、心理学・生物学・哲学・自然科学・物理学・宇宙論など、それぞれの分野の切り口があり、また、その時代によっても、多くの定義や考え方があるので、なかなか一概には説明しきれません。
そこで、ここでは、以下の5つの分野に分けて、「時間とは何か」についての代表的な考察を、3回に分けて、なるべく分りやすく整理してみたいと思います。

  • 心と体に流れる時間(体内時計)
  • 宗教や哲学における時間観の変化
  • ニュートンのどこでも均一に進む「絶対時間」
  • アインシュタインの伸び縮みする「相対時間」
  • 宇宙と時間の関わり

ニュートンのどこでも均一に進む「絶対時間」

時間は常に一定の速さで流れるもの

クリスチャン・ホイヘンスが1656年頃振り子時計を完成させ、その後、より正確な機械式時計が普及するにつれて、「時間は常に一定の速さで流れる」という概念が定着していきます。
それを、常識として一般に定着させたのが、イギリスの科学者アイザック・ニュートンです。
彼が1687年に発刊した「自然哲学の数学的諸原理」という本で導入した概念は、「宇宙のどこに置かれていても、すべての時計は、無限の過去から無限の未来まで変化せずに同じペースで同じ時間を刻む」、そして「空間はどこも均質で、無限に広がっている」というものでした。この「絶対時間」と「絶対空間」をもとに打ち立てたのが、いわゆる「ニュートン力学」で、その後の科学者に大きな影響を与えました。

後にアインシュタインによって、非常に高速に移動している時のような特殊な環境下では、必ずしもこの考えが成り立たないと否定されてしまいますが、時間の概念を科学的に定着させる上では、最も有名な理論で、現代人の時間観には、未だこの考え方が支配的です。

ニュートンの絶対空間に設定された「絶対時間」

アイザック・ニュートン

ニュートンは、常に物体は絶対静止した状態にあるか、そこから落下などして、絶対速度で運動しているかのどちらかだとして、その基準として、3本軸の空間座標による「絶対空間」を設定しました。そして、この空間の中で、何にも影響されず、いつでもどこでも一様に流れる時間を「絶対時間」として定義したのです。

絶対という意味は、時間も空間も物体の運動とは関係なく、それぞれ独立して存在するということで、その中で物体が運動する「入れ物」にすぎないという考え方です。
彼は、ニュートン力学の根幹である「ニュートンの運動の3法則」を合理的に説明するために、そう捉えたのです。

アインシュタインの伸び縮みする「相対時間」

アインシュタインの「特殊相対性理論」

19世紀に入ると、オーストリアの物理学者マッハが、宇宙のあらゆる物質がなくなったら、何の変化も起こらないので、時間そのものが存在しなくなる。よって、時間は絶対的なものではなく、物質との相対的な関係で存在するという概念「相対時間」を主張しました。

これが、ドイツの物理学者アルベルト・アインシュタインの相対性理論に大きな影響を与えました。
アインシュタインは、1905年に発表した特殊相対性理論で、「時間の進み方は、観測者同士のすれ違う速度(相対速度)が小さいうちは眼に見えた時間の差とはならないが、相対速度が亜速度(光速に近い速度)になってくると、眼に見えた時間の差が現れてくるので、どんな時でも一定ではなく、観測者によって異なる」と主張したのです。
これは、「時間は観測者ごとに存在する」ということであり、また、それまでの物理理論では概念上切り離されていた時間と空間を結びつけて、時間と空間が一体となった「時空」という概念を作り、その「時空は観測者の運動状態によって、遅れたり歪んだりして変化する」、という衝撃的な理論でした。

なぜ時間は伸び縮みするのか?

アルベルト・アインシュタイン

彼の理論を分りやすくいうと、「止まっている人から見ると、光速で動いている人の時計が示す時間は遅れる」ということです。
光の速度は、「光速度不変の原理」によって、止まっている人から見ても、光速に近い宇宙船に乗っている人から見ても、同じ30万Km/秒で移動しています。ここでは、仮に、底と蓋の上下に鏡のある光時計が、地上で止まっている人の側にも、宇宙船に乗っている人の側にも1つづつあって、それぞれの光時計の底の光源の鏡から出た光が蓋の鏡に到達するまで、どちらも1秒かかるとします。
宇宙船に乗っている人が、宇宙船の中で時間を計ると、止まっている時と同じ1秒の時間が等しく経過します。これは、「相対性原理」によって、宇宙船もその中の時計も同じ速さで動いているので、止まっている時と同じ物理現象が起こることによります。
一方、地上で止まっている人が、地上から光速に近いスピードで動いている宇宙船の時計を見ると仮定すると、地上で止まっている光時計よりも、宇宙船は横方向に遥か長い距離を進んでいるので、地上の光時計で1秒が経過していても、宇宙船内の光時計はまだ1秒が経過していない現象が現れます。このことから、「止まっている人からみると、動いている人の時間は遅れる」ということが証明されます。

「ウラシマ効果」という言葉がありますが、宇宙船に乗って光速に近い速度で宇宙旅行をして数年後に地球に戻ると、亜光速の宇宙旅行中は時間の進みが遅れるので、そこは遥か未来の地球だったという話です。

この光速に近づくと起こる時間の縮みに、時間だけではなく、物、あるいは、空間自体も縮み、その時、質量とエネルギーが増える、ということを加えたのが、いわゆる「特殊相対性理論」です。

重力の影響を加味した「一般相対性理論」

更に、これに重力の影響や加速・減速を加味した重力理論が「一般相対性理論」です。
簡単に言えば、重力も時間を遅らせる原因となるという訳です。重力は地球の中心から離れるほど弱くなるので、エベレスト山頂にある時計に比べて、地上にある時計はごくわずかですが、ゆっくり進むというものです。また、重力は、時間を遅らせると同時に、空間(光)を曲げる原因になり、重力が大きければ大きい程、曲がり具合も大きくなり、一定以上重力が大きくなると、光さえも吸い込まれる空間の歪み、いわゆる「ブラックホール」が出来ます。
強力な重力を持つブラックホールの境界面にある宇宙船やその中にある時計は、その当事者にとっては、いつもと同じスピードで動いているのですが、それを充分離れた場所から観察すると、宇宙船もその中の時計も止まってみえます。
時間の進み方の遅い早いというのは、あくまで二つ以上の場所の比較によって、相対的に認識されるという訳です。

時間の矢の向き」とエントロピーの増大

エントロピー増大の時間の矢

時間の過去から未来への流れを考える時、時間の方向性が未来から過去に後戻りできる可逆現象なのか、決して後戻りできない非可逆現象なのか、を「時間の矢の向き」を使って、良く考察します。
例としては、熱が時間とともに高温部から低温部に流れる「熱力学的な時間の矢」、池に石を投げたときに、あるいは、放送局の電波が、その中心から周囲に広がっていく「波動の時間の矢」、そして、動物の「進化の時間の矢」は、どれも元に戻らないので、非可逆現象です。

これらの現象を物理学的にいうと、秩序だった構造・状態が、時間の経過とともに無秩序な構造・状態に向かっているので、「無秩序さの度合い=エントロピー」が増えている状態といい、これを「エントロピー増大の法則」と言います。
たとえば、升目にそってきちんと並べられた全て白のオセロのコマを、箱ごと数回ランダムに揺らすと、コマは升目から外れて、多くのコマが反転して黒になります。
秩序だった状態とは、統計的に実現確立が極めて小さい、たとえば、升目に沿ってきちんと並んだ全て白のコマの状態で、無秩序な状態とは、実現確立が高い、升からずれた白黒のランダムなコマです。

このように、エントロピー増大の法則とは、物理的には当たり前の話で、実現される確率が低い状態を最初に用意すれば、時間が経つにつれて実現確率が高い状態に落ち着くことを言います。
したがって、時間の矢とは、私たちの身の回りで観察する現象で、無数の粒子が平均的な振る舞いをすることによって現れる、ことを示しているのです。

参考文献
  • どうして時間は「流れる」のか 二間瀬敏史 PHP新書
  • Newton別冊「時間とは何か」 ニュートンムック ニュートンプレス
  • 図説雑学 時間論 二間瀬敏史 ナツメ社
  • ゾウの時間 ネズミの時間 本川達夫 中公新書
  • 道元禅師の時間論 角田泰隆 駒沢大学
  • 1秒って誰が決めるの? 安田正美 ちくまプリマー新書
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