~セイコークオーツアストロンIEEE受賞~

1.IEEEとは

正式名称はThe Institute of Electrical and Electronics Engineers, Inc.という米国に本部のある世界最大の電気・電子技術者組織です。IEEE"アイ・トリプル・イー"と呼称され、米国の公益法人に指定されています。
AIEE(アメリカ電気学会)とIRE(無線学会)が1963年に合併して誕生した組織です。
会員総数は全世界で36万人を超え(日本は1万2千名)コンピュータ・バイオ・通信・電力・航空・電子等の技術分野で指導的な役割を担っています。
専門部会が組織されており、国際会議の開催・論文の発行・技術教育・標準化などの活動を行っています。

<主な賞>

革新企業賞(IEEE Corporate Innovation Recognition Award)
革新的な製品やシステムの開発により、電気・電子産業の発展に大きく寄与した団体・企業に贈られる名誉ある賞です。1985年に創設され、受賞者にはガラスのトロフィーが贈られます。
マイルストーン賞 (IEEE Milestone)
IEEEの広範な活動分野である電気・電子・情報・通信の工学分野において達成された画期的なイノベーションで、開発から少なくとも25年は経過し、社会や産業の発展に貢献したと認められる歴史的偉業を顕彰する制度として、1983年にElectrical Engineering Milestoneとして創設され、2000年にIEEE Milestones in Electrical Engineering と改称されました。その目的は優れた技術成果を称えると共に それを開発した技術者に対する社会一般の理解と評価を高めることにあります。
Milestoneに選ばれると、その業績を記した銘板(Plaque)が贈呈され、ゆかりの地に建碑されます。

2. 世界初の電子式水晶腕時計"セイコークオーツアストロン"はIEEE 「革新企業賞」と「マイルストーン賞」を受賞

セイコークオーツアストロン
セイコークオーツアストロン

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製品名 セイコークオーツアストロン
発売 1969年12月25日
価格 45万円(18K金側)
機械サイズ 外径30.00mm 厚さ5.30mm
駆動方法 水晶発振、駆動回路によるステップモーター式
精度 日差±0.2秒 月差±5秒
水晶振動数 8,192HZ(振動)

2002年革新企業賞:受賞 セイコーエプソン株式会社

革新企業賞トロフィー
革新企業賞トロフィー

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音叉型水晶振動子と時計用IC、オープン型ステップモーターを使用。クオーツ腕時計の開発が、電子デバイス産業全体の省電力化技術の発展に寄与したことが評価され受賞しました。トロフィーは長野県諏訪市のセイコーエプソン本社内「ものづくり歴史館」に展示されています。

2004年マイルストーン賞:受賞 セイコーエプソン株式会社 中村チーム

マイルストーン賞銘板
マイルストーン賞銘板

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電子式水晶腕時計"セイコークオーツアストロン"の発売のニュースは世界中を駆け巡りました。
当時、機械式ウオッチの精度が日差±20秒の時代にあって精度日差±0.2秒(1か月±5秒以内)の画期的性能は世界に大きな衝撃を与えました。セイコーグループはクオーツ時計普及の為、「高精度化」「薄型・小型化」「多機能化」「デジタル化」等の技術改良に取り組む一方、大量生産方式の開発に取り組みました。また「音叉型水晶振動子」「オープン型ステップモーター」等の技術特許の公開はクオーツ腕時計の普及を大きく促進しました。現在では腕時計の97%がクオーツでセイコー方式が世界標準となっています。技術の電子化に対応すべく世界規模で販売員・修理技術者の為に講習会の実施、アフターサービス体制の構築を推進しました。
銘板の贈呈は受賞年の2004年11月25日に行われました。セイコー時計資料館(現セイコーミュージアム)に常設展示されています。

3.セイコークオーツアストロンの重要技術

1950年代に入り、世界のウオッチメーカー各社は「高精度化」と「電子化」の流れの中にありました。1959年に諏訪精工舎(現セイコーエプソン株式会社)はクオーツ腕時計開発の為、中村恒也をリーダーとするプロジェクトチームを発足させました。当時は水晶を利用した大型時計は各種開発され、日本をはじめ海外諸国天文台、放送局あるいは船舶用等の標準時計として採用されていましたが、腕時計サイズに小型化・商品化するためには新しい技術の開発が不可欠であり、大きく3つの課題がありました。

STORY 01

水晶振動子の小型化・安定化 → 音叉型水晶振動子の開発

(左)水晶と(右)音叉型水晶振動子
(左)水晶と(右)音叉型水晶振動子

水晶振動子は従来の棒状から音叉型にすることによって、小型化と耐衝撃性に秀れ、安定した振動を得ることができました。また音叉型に加工する製造技術(フォトリングラフィ)の発明によって、加工精度の高い超小型振動子を大量に生産できるようになりました。

STORY 02

省エネルギー化 → CMOS-ICの開発

CMOS IC
CMOS IC

最初のクオーツ腕時計(35SQ)はトランジスタによるハイブリットICを使用しました。その後、一般的ICに比べて3分の1から4分の1の低パワーで動くCMOS-ICを自社製造し、小型化、回路の低消費電力化を実現しました。

STORY 03

モーターの省電力化・小型化 → オープン型ステップモーターの開発

直径30.0mm、厚み5.3mmのサイズに機械を収める為、モーターの主要構造部品であるローターとステーターを歯車と歯車の間に分散配置させるオープン型ステップモーターを開発し、1ステップ/1秒で運針する方式を採用しました。この1ステップ/1秒が省電力に大きく貢献しました。

セイコーグループは、クオーツ時計のムーブメントをおよそ10年間で約30万分の1の体積にまで「小型化」しました

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一般的なクオーツ腕時計のしくみ

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4.情報化社会に貢献したセイコークオーツアストロン

今日 クオーツ腕時計は誰もが「日常生活で安心して使える時計」となりました。その技術は液晶デジタル腕時計や、現在注目されている電波時計、GPS腕時計に活かされています。時計のみならず、音叉型水晶振動子はPC・携帯電話・スマートフォン・デジタルカメラなど、広範囲にわたって活用されており、ネットワーク社会に貢献しています。

関連リンク

参考文献

・SEIKOの二つ折チラシ 「腕時計の歴史を変えたセイコークオーツアストロン」
・諏訪精工舎 社内報
・WEB/IEEE 日本OFFICE
・WEB/IEEE 関西支部
・セイコーエプソン株式会社HP