「時間」という言葉は、一般的には、「時の流れのある一瞬の時刻」、あるいは、「ある時刻とある時刻の間の長さ」の意味で使われています。
ただし、「時間とは何か」といざ問われると、このテーマには、心理学・生物学・哲学・自然科学・物理学・宇宙論など、それぞれの分野の切り口があり、また、その時代によっても、多くの定義や考え方があるので、なかなか一概には説明しきれません。
そこで、ここでは、以下の5つの分野に分けて、「時間とは何か」についての代表的な考察を、3回に分けて、なるべく分りやすく整理してみたいと思います。

・心と体に流れる時間(体内時計)
・宗教や哲学における時間観の変化
・ニュートンのどこでも均一に進む「絶対時間」
・アインシュタインの伸び縮みする「相対時間」
・宇宙と時間の関わり

宇宙と時間の関わり

宇宙の誕生・膨張と時間の矢

宇宙は、無の状態から、小さな一点が超高温・超高密度になる「ビッグバン」で誕生し、一様で等方な空間から始まりますが、膨張するにつれて、部分的に温度や密度が下がり、次第に星や銀河が誕生します。その後、時間の経過と供に、膨張がうまくいかず時空が歪んでひび割れするエリア、いわゆる「ブラックホール」が出来始めます。

このことは、宇宙そのものが、エントロピーの低い秩序だった特殊な状態から生まれ、適度な速さで膨張することで、低エントロピー状態から高エントロピー状態に、時間の矢が流れていることを示しています。
この適当な速さの宇宙膨張こそが、まさしく、時間の矢が流れる究極的な原因であり、すべての時間の概念の源だといわれています。

逆に言えば、宇宙空間の始まりと時間の始まりは同一で、宇宙が続く限り時間は続きます。もし、宇宙の膨張がいつの日か収縮に転じ、最終的には一点に収束すると、宇宙空間は終わり、その時が時間の終わりと考えられています。

タイムマシンは実現可能か?

現代の科学では、未来へのトラベルは、光速に近い速度で宇宙旅行をして地球に戻ってくればいいので、技術的な問題はともかく、原理的には可能というスタンスをとっています。

問題は、時間の矢に逆らって、未来から過去に後戻りするタイムトラベルです。
何人かの研究者がこのテーマを研究し、幾つかの説を発表していますので、代表的な説を二つご紹介します。

キップ・ソーン博士の「ワームホール」理論など

ブラックホールとは正反対に、物質を吐き出し続ける宇宙空間のひび割れをホワイトホールといいます。吸い込み口のブラックホールとこの吐き出し口のホワイトホールが繋がった時空の虫食い穴を「ワームホール」と呼んでいます。ワームホールの中では、重力が非常に強いために、時間の進み方が非常に遅く、移動時間がほぼゼロになると言われています。
アメリカの著名な物理学者キップ・ソーンは、1988年に、実際の宇宙では非常に遠い距離にある2点間が、このワームホールの穴の中を通過することで、瞬時に移動できるので、実際の時間の経過よりも早く移動が可能になる。これは、過去に遡って移動が可能ということである、という論文を発表しました。
また、続いて1991年に、その理論に基づいて、アメリカのリチャード・ゴッド博士が、「宇宙ひも」という物体を利用した、タイムトラベル理論を発表します。
幅が原子核よりも小さい1cmあたり10トンにも達するひも状の物体が亜光速で宇宙を漂っていて、この強力な重力が周囲の時空を歪ませるというものです。この歪みで、同じように過去へのタイムトラベルが可能という論文でした。
どちらも物理学の理論上は、成り立つというだけで、実際にそれが存在し、技術的に実現が可能かどうかは、まだまだ研究が必要なようです。

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因果律とパラレルワールド

スティーブ・ホーキング博士
スティーブ・ホーキング博士

有名な宇宙物理学者のスティーブ・ホーキング博士も、多くのタイムトラベル否定論者の一人ですが、彼らがその根拠にしているのは、「原因があってはじめて結果が生じる」という自然科学の根本原理=因果律です。

すなわち、映画の1シーンのように、誰かがタイムトラベルで過去に戻り、歴史を変えてしまうと、現在まで変わってしまう、という因果律に基づく時間のパラドックスに対して、それを覆す有効な理論が弱いために、過去へのタイムトラベルは出来ないというものです。

過去へのタイムトラベル肯定論者の中には、この因果律に対して、量子力学というミクロの世界の理論で、「パラレルワールド(多世界解釈)」という考え方をとって説明している例もあります。
過去に遡って歴史を変えた場合、その時点で、自分が来た未来とは別の世界で、別の未来が平行して展開される、というものですが、素粒子のような小さな質量の世界の理論を、全世界に当てはめるのは、かなり乱暴かもしれません。

宇宙の時間と宇宙の時計

現在の地球の時間は、地球の自転を利用した天体の日周運動の観測ではなく、各GPS衛星に搭載されている原子時計が刻む、狂いが10億分の1秒以下の超高精度な固有時を比較して、国際原子時として決められています。

一方、太陽系外ではミリ秒(1000分の1秒)単位で規則正しい電波・X線などの電磁波(パルス)を出す中性子星が観測されていて、それらをミリ秒パルサーと呼んでいます。特に「PSR1937+21」と呼ばれるミリ秒パルサーは、パルス周期が約1.6ミリ秒で安定していて、周期のふらつきは、100兆分の1近くにまで達しているそうです。
これによって、現在の国際原子時をミリ秒パルサーで補正する研究、すなわち原子時計よりも、更に正確なパルサー時計の研究開発も始まっています。

現在は、地球に住む人間に都合がいいように、地球上の国際原子時を、太陽系全体の座標時として扱っていますが、本来、広い宇宙空間では、惑星の相対的な位置によって、火星や木星などの固有時の進み方は異なっているはずです。
今後、人類の宇宙空間への活動領域が広がり、火星や木星に頻繁に行くようになると、それらの惑星用に、地球の座標軸とはあらかじめ原子時計やパルサー時計の周波数をずらした火星用時計、木星用時計が必要になるかも知れません。あるいは、太陽系の惑星を均等に考えた時間、すなわち、地球標準時ではなく、新たな「太陽系標準時」を作る、という議論が出でくるかも知れません。

参考文献

・どうして時間は「流れる」のか二間瀬敏史PHP新書
・Newton別冊「時間とは何か」ニュートンムックニュートンプレス
・図説雑学時間論二間瀬敏史ナツメ社
・ゾウの時間ネズミの時間本川達夫中公新書
・道元禅師の時間論角田泰隆駒沢大学
・1秒って誰が決めるの?安田正美ちくまプリマー新書