「マジックレバー」はセイコーが1959年に開発した、自動巻き腕時計の中に入っているはさみのような形をした小さな部品です。腕の動きで発生する自動巻き腕時計の回転錘の「回転運動」を、ぜんまいをまく「上下運動」に変えることで、効率良くぜんまいを巻き上げる、という大切な役割を持っています。どうして、そんなことができるのか、その仕組みをご紹介します。

マジックレバーのポイントは、マジックレバーの軸が回転錘の中心軸からずれた偏心ピンに入っているので回転錘が左右どちらに回転しても、マジックレバー本体は上下に動くことです。

さらに注目点は、バネになっているマジックレバーのふたつの爪です。実はそれぞれ形が違います。2つの「引き爪(A)」と「押し爪(B)」の先端は、常に動力ぜんまいの入った香箱車を回す「伝え車」にバネ力で接しています。このバネの力によって、マジックレバーが下に動く時には、「引き爪(A)」の先端が「伝え車」を手前に引いて回転させ、押し爪(B)は歯の坂の部分をすべって下ります。

逆に、マジックレバーが上に動く時には、「押し爪(B)」の先端が「伝え車」を押して前に回転させ、引き爪(A)は歯の坂の部分をすべって昇ります。
このようにマジックレバーによって、回転錘の回転方向にかかわらず、二つの爪が常に一方向に動く働きをして、「伝え車」は常に一方向に廻り効率よく動力ぜんまいを巻上げるのです。

小さなマジックレバーの大きな役割、いかがでしたか?マジックレバーは、巻き上げ効率を飛躍的に高めたセイコー独自の自動巻機構の大切な基幹部品で、今もセイコーのほとんどの自動巻の機械式時計に使われています。