オフィシャルタイマー セイコー
セイコーは、1964年の第18回オリンピック東京大会以来、さまざまな国内外のスポーツ大会で公式計時を担当してきました。
公式計時活動は、計測の正確さはもとより、観客や選手、テレビ視聴者にとって、見やすく、わかりやすい表示機能を備え、さらに報道関係の方々への迅速な情報提供を行うなど、それぞれのニーズに的確にこたえることが求められます。セイコーでは、「いかに早く、正確に計測し、かつわかりやすく伝えるか」をテーマに、計測・集計・結果発表をオンラインで処理するシステムを構築してきました。そして、その豊富な経験をもとに、世界有数の総合スポーツ計時システムを確立しています。
SEIKOが公式計時を行った主な国際大会
オリンピック大会
西暦 | 大会名 |
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1964 | 東京オリンピック |
1972 | 札幌オリンピック(冬季) |
1992 | バルセロナオリンピック |
1994 | リレハンメルオリンピック(冬季) |
1998 | 長野オリンピック(冬季) |
2002 | ソルトレークシティオリンピック(冬季) |
主な国際競技大会
西暦 | 大会名 |
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1966 | アジア競技大会(バンコク) |
1967 | ユニバーシアード 夏季大会(東京) |
1970 | アジア競技大会(バンコク) |
1974 | 英連邦諸国大会(クライストチャーチ) アジア競技大会(テヘラン) |
1978 | アジア競技大会(バンコク) |
1979 | FINA世界水泳選手権大会(東京) |
1982 | アジア競技大会(ニューデリー) |
1985 | ユニバーシアード 夏季大会(神戸) |
1986 | アジア冬季競技大会(札幌) |
1987 | IAAF世界陸上選手権大会(ローマ) |
1990 | 英連邦諸国大会(オークランド) アジア冬季競技大会(札幌) |
1991 | ユニバーシーアード冬季競技大会(札幌) IAAF世界陸上選手権大会(東京) |
1993 | アルペンスキー世界選手権大会(雫石) IAAF世界陸上選手権大会(シュツッツガルト) |
1994 | アジア競技大会(広島) 英連邦諸国大会(ビクトリア) |
1995 | IAAF世界陸上選手権大会(イエテボリ) ユニバーシアード 夏季大会(福岡) |
1997 | IAAF世界陸上選手権大会(アテネ) |
1999 | IAAF世界陸上選手権大会(セビリア) |
2001 | FINA世界水泳選手権大会(福岡) IAAF世界陸上選手権大会(エドモントン) |
2002 | パンパシフィック水泳選手権大会(横浜) ISUスピードスケートワールドカップ競技会(長野) |
2003 | 東京国際マラソン(1981) IAAF世界陸上選手権大会(パリ) |
2004 | ISUスピードスケートワールドカップ競技会(長野) |
2005 | IAAF世界陸上選手権大会(ヘルシンキ) |
2007 | 世界競泳インジャパン(千葉) IAAF世界陸上選手権大会(大阪) |
2009 | IAAF世界陸上選手権大会(ベルリン) |
2010 | 世界スプリントスケート(帯広) |
2011 | IAAF世界陸上選手権大会(テグ) |
2013 | IAAF世界陸上選手権大会(モスクワ) |
最初に「オリンピック冬季大会」という国際的な場があたえられましたのは、1972年の札幌大会です。白銀の世界に躍動する選手の姿がテレビ中継によって、世界中の人びとに伝えられました。最低2系統の電気計時システムと別に手動計時2系統もとりいれるという万全の計時体制を敷き、この冬季の大会においても、セイコーは公式計時という大任を“ノントラブル”で果しました。
積み重ねた準備と経験
セイコーは、東京オリンピックの翌年から、スキーやスケートの計時を手掛け始めました。しかし、東京オリンピックで使用した機材のほとんどは冬の低温下では正常に作動しませんでした。札幌オリンピックが決定される以前に製作した機材は競技ごとの特性を盛り込んだものではなかったのです。
冬季スポーツは、アルペンスキー、スピードスケート、ボブスレー、リュージュなどタイムレースが多いのが特徴です。タイムレースでは、数人が同時にスタートする陸上トラック競技や競泳などの着順レースと異なり、一人ひとりのタイムを計り順位を決めるので、最後の競技者がゴールするまで順位が確定しません。一人でもタイムを取り損ねたら競技そのものが成立しなくなってしまいます。しかも、競技は雪、氷、風など過酷な自然条件の下で、ほとんどの種目が100分の1秒、1000分の1秒の精度でタイムを測定することが要求されます。スタートとゴールの瞬間を見通すことができない地形で行われるなど、夏季の陸上や水泳とはまったく違った条件下での計時ばかりです。
札幌オリンピックのオフィシャル・タイマーに決定した1967年以来、セイコーは、開会日の1972年2月3日に照準を合わせて、小型化、軽量化、耐寒性など各種の改良を加えるとともに、新しい冬季競技用電気計時システムを開発しました。札幌オリンピックまでの5年間に国内で開かれた冬季競技大会の計時支援は、32回にものぼります。
26機種・583個の計時装置と計時支援チーム
札幌オリンピック冬季大会の6競技35種目に使用された計時装置は、26機種・583個にのぼります。計時装置を繋ぐケーブル長さの合計は100キロメートルにもなりました。
新規に設計されたデジタル エレクトロニック タイマーは、特徴的なものです。東京オリンピックの時からストップウオッチのクオーツ化を目指していましたが、表示部分の素材が開発されていなかったため、当時のデジタルストップクロックでは、7列に配置された62個のランプの点灯している数字を読み取る方式でした。その後、発光ダイオードが開発され、デジタル(数字)表示が可能になりましたが、まだ電池が大きく、ストップウオッチとは呼べず、デジタル エレクトロニック タイマーと名付けられました。特性の異なる2個の水晶振動子を組み込み、温度によってそれを切り替えて使用する方式としたため、マイナス20℃にもなる冬の大会でも、プラス40℃を超す夏の大会でも計測ができるようになりました。
機械式時計を使う手動計時からクオーツ時計による電気計時へと完全に移行していた大会でしたが、電気が苦手とする低温で厳しい気象条件による機材のトラブルなど、冬ならではの条件克服が計時成功の大きな鍵となります。セイコーは、90名以上のスタッフを“SEIKO TIMING TEAM”として派遣し計時支援を行いました。
主な計時装置
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STORY 01
出発合図計I型(スキー、バイアスロン)
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選手を30秒または1分間隔で正確にスタートさせるために使用される。
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STORY 02
スターティングゲート(スキー、バイアスロン)
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選手のスタートと同時に電気的な信号を発生し、ゴール地点の計時装置に伝える装置。
マルチ・チャンネル・タイマー、プリンティング・タイマーなどを作動させる。
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STORY 03
通過音報知器(スキー、ボブスレー、リュージュ)
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手動計時員がストップウオッチやデジタル・エレクトロニック・タイマーを正確に始動するために必要な装置。ゴール地点に設置され、選手がスタートラインを通過した瞬間、この装置が光と音を発し、手動計時員はこれによりストップウオッチを始動させる。
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STORY 04
光電子装置(スキー、バイアスロン、ボブスレー、リュージュ、スピードスケート、ジャンプ)
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投光部から光電子ビームを発射させ、選手がこの光電子ビームを横切ると、受光部が作動して、マルチ・チャンネル・タイマー、プリンティング・タイマーに信号を送る。
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STORY 05
マルチ・チャンネル・タイマー(スキー、ボブスレー、リュージュ)
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スタートからゴールまでの所要時間を自動的に計測、印刷し、タイム表示装置へ直接情報を送り出す装置。カウンター部に選手のゼッケン番号をあらかじめセットしておくことで、スタート信号とゴール信号を受け取って計時する。1/1000秒桁で計測し、自動的に四捨五入(または切捨)して、1/100秒桁のタイムがプリント部でプリントアウトされる。同時にゼッケン番号と計時内容がタイム表示装置/テレビタイマーに送られる。
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STORY 06
プリンティング・タイマー(スキー、バイアスロン、リュージュ、ジャンプ)
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時間計測機構と印刷機構をひとつに組み合わせた電子記録装置。5/10000秒桁の精度まで計測でき、1/1000秒桁までプリントされる。小型、軽量で冬季競技会に適するように、耐寒性のある電子部品および材質を使用している。
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STORY 07
スピードスケート用プリンティング・タイマー
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1/1000秒桁で計測し自動的に1/100秒桁でプリントする機構をそなえ、さらにスコアボードの表示装置やテレビタイマーへ直接情報を送る。
スターティングピストルの発射と同時に信号をうけて計時を開始し、選手がラップ地点のスピードスケート用光電子装置を横切るとアウトコース、インコースそれぞれの選手のスタートからの積算タイム、その周回のネットのラップタイム、周回数をプリントし、そのデータをスコアボードのタイム表示装置とテレビタイマーに表示する。選手がゴールするとゴールタイムと2名の着順をプリントする。
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STORY 08
デジタル・エレクトロニック・タイマー
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1秒間に204,800振動する水晶振動子とICを使い、1/100秒桁まで測定できるハンディなストップウオッチ。スタート、ラップ、ストップなどの操作はすべて、プッシュボタン方式。ラップタイムを測定したあとも積算計測ができる。測定範囲は、9時間59分59秒99まで。スターティングピストル、グリップスイッチ、光電子装置などと連動させ、電気計時系統に組み入れて使用することも可能。温度範囲の広さ(-20℃から+85℃まで)とアルミダイキャストの防水外装されているため、初めて冬季競技に使用された。
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STORY 09
ストップウオッチ(1/5秒計置針付積算式、1/10秒計置針付積算式、1/100秒計積算式)
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冬季競技用に開発された機械式ストップウオッチ。アルミ合金を使い、従来の半分以下の重量となっている。雪中でも見やすいように目盛、文字、色調を配慮した文字板、表面に氷が付着しない特殊テフロン加工、耐寒性に優れている。
万一電気計時装置にトラブルが発生したときに備えて、電気計時装置と並行して機械式ストップウオッチでも同時に計測が行われた。東京オリンピックに使用されたものと比べると、格段に進化している。
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STORY 10
セイコーテレビタイマー
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各種装置で計測されるタイムが直接この装置に送られ、スクリーンに数字でデジタル表示される。このスクリーンをテレビカメラで写し、競技の中継画面に公式タイムとして表示する。
計測の方法(アルペンスキー)
電気計時系統
1. 出発合図計に合わせて選手がスタート
2. スターティングゲートが開かれると信号が送られ、プリンティングタイマーにスタート時刻がプリントされるとともに、マルチ・チャンネル・タイマーが計測を開始する。
3. 選手が光電子装置を横切ると、プリンティングタイマーにゴール時刻がプリントされ、マルチ・チャンネル・タイマーの計測もストップする。
4. マルチ・チャンネル・タイマーからテレビタイマーや電光掲示板にもデータが送られ、テレビ視聴者や会場の観衆にタイム情報が届けられる。
(プリンティングタイマーの時刻印字はバックアップのためであり、必要が生じた時はスタート時刻とゴール時刻の差によりタイムを割り出す)
手動計時系統(バックアップ)
1. 選手がスターティングゲートを押し開くと、ゴール地点の通過音報知器が音と光を発する。
2. 手動計時員は、通過音報知器によりデジタル・エレクトロニック・タイマーやストップウオッチを作動させる。
3. 目視でゴールを確認して、デジタル・エレクトロニック・タイマーやストップウオッチを止める。
関連情報
・『札幌オリンピックとSEIKO』(株式会社服部時計店SEIKO NEWS 編集係、1971年)
・『せいこう』、『だいにせいこう』、『諏訪せいこう』(各社 社内報、1972年)
・『国際時計通信 Vol.36 No.419』(国際時計通信社、1995年)
・『国際時計通信 Vol.37 No.432』「幻のストップウオッチ - 商品化されなかった札幌仕様の機械式ストップウオッチ:田中太郎著」(国際時計通信社、1996年)
・『ウインタースポーツのためのSEIKO計時方式 1971』(株式会社 服部時計店)