正確で安定した周期現象の発見により、時計の精度は向上してきました。
水晶の振動数を基準にしたクオーツ時計よりもさらに高精度な時計として、原子の振動数を基準にした「原子時計」が登場します。
世界の1秒の定義にまで、大きな影響を与えた原子時計とは一体どのようなものなのでしょうか?
原子時計とは
原子は、中心にある原子核とその周りの軌道を周回する電子でできています。電子の軌道や電子のもつ磁力の強さなどの違いにより、原子はそれぞれエネルギーの異なる状態があることが量子力学によって明らかにされています。
原子は、エネルギーの違う状態に変わる際に、電波や光を特定の周波数で吸収したり放出したりしています。この電波や光の周波数を、振り子やテンプの振動のように時間の基準とするのが原子時計です。
原子時計の歴史
原子時計の仕組みを考えたのは、アメリカのイジドール・ラビ博士で、1945年のことでした。その後、1949年にアメリカでアンモニア分子による世界初の原子時計が開発されましたが、精度は当時の水晶時計を下回り、稼働する現物で原理を証明して見せるに留まりました。
1955年に初めて高精度な原子時計「セシウム133原子時計」がイギリスの国立物理学研究所 (NPL) で開発され、実用化されました。セシウム133は、セシウム原子の様々な同位体の中で、放射能を出さず、自然界で唯一安定して存在している元素です。
原子時計の精度を表す単位は「10のマイナス何乗」がよく使われます。1955年に開発された原子時計の精度は10-10でした。これは、300年に1秒の誤差に相当します。
1967年には「セシウム133原子時計」が、国際単位系(International System of Units) において1秒を定義する基準となりました。それまでは1秒の長さは地球の自転や公転を基準とし天文学的な見地から定められていましたが、地球の運動も変動していることがわかり、1秒は「セシウム133原子が91億9263万1770回振動する時間」と再定義されたのです。
原子時計の種類
原子時計にはさまざまな仕組みがあります。それぞれに最適な原子を使っていて、中には複数の原子が使われているタイプもあります。
現在使われている原子時計には、セシウムを始めルビジウム、水素など周期表の I族の原子が多く使われ、その方式には受動(パッシブ)型と能動(アクティブ)型の2つがあります。
①受動(パッシブ)型
様々な周波数の電磁波を原子に当て、共鳴するものを見つけることで、周波数を特定する方式です。現在原子時計の大半はこの方式が使用されています。
・原子ビーム式:原子ビーム式は、「セシウム133原子時計」に使われています。図のように高真空 のタンクの中でセシウム原子を熱し、原子ビームを作ります。そのビームに、中央で2回電磁波を照射し、セシウム原子の周波数を特定します。2回の測定の間隔が長いほど、干渉効果により特定すべき周波数の幅が狭まり、測定の効率と精度が上がります。原子ビーム式の場合、図で分かるように、構造上最大で取れる幅は2mがやっとで、常温で秒速200mで飛ぶセシウム原子の2回の測定の間隔は1/100秒、周波数の幅は100Hz程度です。
・冷却原子泉式:原子ビーム式の精度を高めるために工夫を施した方式です。計測過程で原子を噴水のように垂直に打ち上げることがこの名前の由来です。まず、セシウム原子を絶対零度近くに冷やして、その動きを秒速1cm程度まで遅くします。その上で、垂直に打上げて重力で自由落下させます。この上昇時と落下時の2回測定する仕組みです。このやり方だと、測定の間隔が1秒ほど取れるので、測定周波数の幅は1Hz程度まで縮まり、精度が100倍上がります。原子泉型を宇宙にもっていけば、無重力に近い状態で落下速度が遅くなるため、更に10倍精度が上がると予想されています。最近の原子泉型は、10-16の精度を保っています。これは、3億年に1秒の誤差に相当します。
・ガスセル式:構造が簡単で、精度はやや低いですが、小型で低価格のものがつくりやすいタイプです。高価で高精度なものではGPS衛星などにも使われている「ルビジウム原子時計」があります。
②能動(アクティブ)型
原子から電磁波を出させて測定する方式です。
・アクティブメーザー式:短い時間で測定できる方式です。ここに挙げた中では唯一の能動(アクティブ)型で、「水素メーザー」が主流となっています。現在日本標準時は、ベースの時間を水素メーザーで作り、セシウムを使った冷却原子泉式で、微細な誤差を修正して作っています。