「最初の機械式時計」
世界で最初の機械式時計は、1270年から1300年頃のルネッサンスの時期に、北イタリアから南ドイツに至る地域で作られた塔時計だと言われています。まだ文字板や針はなく、鐘を鳴らすことで時を知らせていました。この時計は錘の重さで歯車を動かします。錘が二つついており、一つで時計を動かし、もう一つで鐘を鳴らします。
機械式時計を構成する3要素、「動力源」、「調速機」、「脱進機」
最初の機械式時計から現代の機械式腕時計に至るまで、変わらず基本要素を形成しているのは、「動力源」と「調速機」、そして「脱進機」です。
動力源とは、時計が動くための仕組みのことで、初期の機械式時計では錘でした。紐につながった錘が下がっていく力で時計が動きます。
錘の弱点は、どうしても大きくなること、移動ができないことの二点でしたが、後世、動力源を改良することで、コンパクトで持ち運びのできる時計が実現しました。
調速機とは、機械において回転などの運動の速度を自律的に調整する仕組みのことを指します。初期の機械式時計は、「棒テンプ(フォリオット・バランス)」という調速機を使用していました。調速機の改良は、精度と携帯性の向上につながります。
脱進機は、調速機が同じ間隔での往復運動を持続させるために、常に間欠的な力を与え続けながら、歯車を一定間隔で回転させる部品です。初期の機械式時計は、「冠型脱進機」が使用されていました。脱進機の改良は、精度と耐久性の向上につながります。
調速機と脱進機の関係
調速機は自由に振れているあいだは等時性がありますが、何もしなければ次第に振幅は小さくなり、やがて止まってしまいます。時計が動き続けるには、調速機に定期的に力を与えなければなりません。その働きをするのが脱進機です。しかし、脱進機が調速機に力を与える動きは、等時性を乱し精度を下げてしまいます。力を与える時間をできるだけ短くすることが精度向上の鍵となりました。
「棒テンプ」と「冠型脱進機」とは?
棒テンプは、一般的に、櫛状になっている棒の両端に錘が吊り下げてあり、水平方向に往復運動します。棒テンプの中心には回転軸があり、上と下に爪が取り付けられています。
冠型脱進機は、王冠のような形の歯車(ガンギ車)と、棒テンプの回転軸の爪で構成されています。その爪が棒テンプの往復運動のリズムを受けて、冠型脱進機の歯車(ガンギ車)と噛み合い、一定スピードの回転運動に変えます。
棒テンプの錘の位置を変える、もしくは錘の重さを変えることで、往復の速さを調整し時を刻むスピードを進めたり遅らせたりしました。しかし、棒テンプの往復運動には等時性*がないため、安定した精度が得られませんでした。
*振り子などの周期運動で、周期が振幅の大きさに無関係に一定であること