テンプの発明とシリンダー脱進機

クリスチャン・ホイヘンス
クリスチャン・ホイヘンス

振り子時計を発明したホイヘンスは、1675年に「テンプ」を発明しました。それは懐中時計用ではなく、航海用時計を作り出す過程でのものでした。

振り子には、振幅が変わっても周期が変わらない等時性があり、これが正確な時計の鍵となったのですが、弱点もあります。それは、振り子全体が揺れると振動がぶれ、停止することもあることです。そのため、振り子時計は、移動することや携帯すること、船の上で使うことができませんでした。

テンプゼンマイ
テンプゼンマイ

同じように等時性をもちながら、振動に強く、携帯も可能なのがテンプです。
テンプは、金属の輪の中に細いゼンマイを仕込んだもので、ゼンマイは一端が輪の軸に、反対の端が時計本体に固定されています。振り子の往復運動の代わりに、テンプは軸を中心に左右に往復運動をします。「ひげゼンマイ」の回転する角度を振り角といいますが、ひげゼンマイには振り子と同じ等時性があるので、振り角が変化しても周期は変わりません。

テンプの発明は、揺れの激しい船の上でも、携帯しても正確な時計を可能にしました。

トンピオンのシリンダー脱進機

トーマス・トンピオン
トーマス・トンピオン

トンピオンは1695年に置時計用に、より精度の高い「シリンダー脱進機」を発明します。

シリンダー脱進機
シリンダー脱進機

この脱進機にはアンクルが無く、ガンギ車の爪がテンプの軸にある半円筒状のシリンダーの回転によって停止・衝撃を繰り返しながら、一定の速度で回転する機構でした。ただし、これは摩耗が激しく耐久性に難がありました。

トンピオンは、親交のあったロバート・フックよりアイディアを得て、1675年にひげゼンマイを使ったテンプを作り、小型化と高精度化を同時に実現した懐中時計の製造でも知られています。精度が上がったために、この時計には分針がつきました。
また、時計の製造を分業化し、フックと共同開発した歯車を正確に切削するロータリーカッターを使用して部品の製造技術を向上させるなど、時計の量産の道を拓いた先駆者であったために、後年「イギリス時計産業の父」と言われるようになりました。

弟子グラハムによる直進式アンクル脱進機

ジョージ・グラハム
ジョージ・グラハム

退却式アンクル脱進機は、アンクルがガンギ車を逆向きに押すステップが入り、この動きが精度を低下させ、時計全体に負荷をかけるという欠点がありました。その欠点を改良したのが、トンピオンの弟子イギリス人ジョージ・グラハムです。1715年にクロック用に「直進式アンクル脱進機(デッドビート脱進機)」を発明します。

直進式アンクル脱進機
直進式アンクル脱進機

グラハムは、パレット(アンクルがガンギに当たるツメの部分)の形状を改良することで退却(後退)をなくしました。退却する動きの代わりに、ガンギ車は一時停止するので、デッドビートと名づけられました。歯車の退却がないので、ガンギ車にパレットが触れる時間が短く、そのために振り子の等時性が保たれ、秒針も後退せずにピタリと静止するという、時計史上画期的な機構でした。

グラハムはその後1720年頃に、トンピオンの置時計用のシリンダー脱進機を小さな懐中時計用に改良しました。円テンプの衝撃や摩擦を最小限にして、精度の向上した持ち運びのできる懐中時計を実用化しています。
シリンダー脱進機は、従来懐中時計に使われていた冠型脱進機に取って代わりました。精度は大きく向上し、冠型のバージ(爪)がなくなって時計が薄くなりましたが、シリンダー脱進機は、加工が難しく、摩耗して耐久性もあまり良くないという課題が残りました。

*デッドビート脱進機を発明したのはトンピオンで、グラハムはそれを普及させただけだという説もあります。

参考文献

「調速機  時計理論マニュアル4」   第二精工舎
「時計のはなし」  平井澄夫     朝日新聞出版サービス
「時計」      山口隆二     岩波新書

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